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誰かの声が聞こえるんだ。君の名前を教えて?・・・よく聞こえないな、もっと僕のそばに来ておくれよ。もっと話をしよう。さぁ、おいで。姿を見せて。
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05.03.17:54

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  • 05/03/17:54

01.26.09:58

【SS】The Elegy.

青年は、決して少女を連れ歩こうとしなかった。
いつだって少女は部屋に残されたまま。
それが悲しいわけではない。彼が少女を大切にしていることは知っていたから。

ただ彼が、少女が彼を大切にしたいと思っていることを知らないことが悲しかった。

言葉も出せない。
目も合わせられない。
触れることも叶わない。
愛されているのに、愛を返せない。

唯一少女ができることといえば、歌うことくらいだった。
しかしそれも、彼が望んだとしても彼を苦しめることに違いはなかった。

『私に何ができるというの?』

物言わぬ少女の、流れない涙。
待つことしか出来ない。意思を持つことも許されない。

呪われた少女は今日もまた、誰にも聞こえぬ哀歌を奏でる。
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12.25.00:54

【SS】Embryos.

―――いつからだろう、切れるはずのないものが切れるようになったのは。

815.png






いつの間にか知らない"傷"が出来ていた。
小さな小さなそれはいつも僕のそばにあって、少しずつ広がっているように見えた。
しかし僕はそれを見ないことをした。気付いているのに知らん振りをした。

しばらくしても"傷"はふさがらず、更にその亀裂を大きくした。
亀裂の隙間から覗いた向こう側の世界は真っ暗でよく見えなかった。
あまりいいものではないだろう。再び僕は同じ選択をした。

静かな静かな"二人"部屋。さらに"傷"は広がり、数を増やしていた。
僕と彼女しかいないはずの部屋に、子どもが泣くような声がかすかに聞こえた。
それは"傷"の向こう側から聞こえているようだった。

誰が泣いている?僕はとうとう"傷"に向き合った。
覗き込むには狭い"傷"の端にメスをあて、少しずつ切り開いた。
その"傷"は、こんなもので切れるはずのないものだったのに、いとも容易くその口を大きくした。

"傷"に手を差し込んで、ゆっくり押し開いた。熱を感じないはずのその"傷"の中は妙に生暖かかった。
指先に纏わりつくようなぬめりを帯びた感触は、血液の感触を彷彿とさせた。
その空間の中に、確かに子どもはいた。ただし、彼らは皆、どこかが欠けていた。

彼らには理性がないようだった。だからといって、狂い暴れることもなかった。
彼らには言葉もないようだった。だからといって、思うことがないというわけではなかった。
彼らは皆、たった一つのある感情を求めていた。だが空間にはそれがなかった。そのためにずっと泣いていた。

持っていなければ、求めよう。ここに無ければ、違う場所へ行こう。
君らが言葉を持たない代わりに、僕が言葉を代弁しよう。
出ておいで。僕もそれがほしい。一緒に探そう。僕も仲間に入れておくれ。

彼らに名前は無かった。彼らは与えるべき人からそれをもらえなかった。
一人ひとりには無理だったが、僕は彼らに名前をつけた。
気に入ってくれたかはわからないが、空気は冷たくはなかった。

彼らの世界は暗い水の中。取り出すのは、たった一本のメス。