05.16.06:07
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06.15.13:31
【記憶のカケラ】夕暮れに聞こえる歌
牢の中から聞こえる声。
崖の向こうまで響く幼い高音。
たいようおちて あいいろせかい
のこるオレンジ かすかにたより
おうちへかえろ いそいでかえろ
さえずりきえて まっくろせかい
ふわふわぬくい うもうのふとん
もぐってねむろ うたききながら
あのこがないた むらさきのそら
しろいひかりに うたごえふえる
いってらっしゃい あさがはじまる
「・・・それ、子守唄だろ?」
白い翼を羽ばたかせて、少年が一人、牢のそばに降り立った。翼をしまい、歩み寄ってくる。牢の中で歌っていた少年も歌うのを止め、柵のそばまで近寄った。
「ここに来たら、また怒られるんじゃない?白嵐」
「構うもんか。村にいたってつまらないしな」
からかうような語調に、軽い返事。顔を見合わせてくっと笑う。
柵にもたれるように腰掛けたのは白嵐と呼ばれた少年。オレンジ、白、紫、藍色、きれいなグラデーションを描く空を見上げた。くるりと牢の中の少年に顔だけ向けて。
「お前、いつもそればっか歌ってんのな。」
「うん、これしか知らなくて。ははさまが昔歌ってくれたんだ」
問いかけに、苦笑いを添えて返事をする。
「僕もいろんな歌が知りたい。村の皆みたいに、たくさん歌いたい」
でもそれは無理な願いだよね、そう言って肩を落とす。
その様を見てすっくと立ち上がり、大きく息を吸い込んで。
歌えや歌え 今宵は祭り
騒げや騒げ 今宵は宴
翼広げて 扇に変えよ
月夜に響け 我らが歌声
寝てるのも起こしてつれて来い
みなで騒がずなんとする
病気だろうと飛び起きようぞ
一夜限りの大乱響
踊れや踊れ 風舞うほどに
飲めや食えや 動けぬほどに
翼羽ばたき 嵐に変えよ
月夜に響け 我らが歌声
その大きな声に、牢の中の少年は驚いて目を丸くした。
そんな少年の方を向いて、にっと白嵐が笑う。
「歌なら、俺が教えてやるよ」
思ってもいなかった言葉に、一瞬きょとんとした顔をして。ちょっとの間を置いて、真一文字に結ばれた唇が緩やかに弧を描いた。
「ありがと、・・・でも、あんまり上手じゃないね。とってもがらがら声」
「なっ、そんなこというと教えてやんねーぞ!!」
あははは、楽しそうな笑い声が響く。「お前ももうちょっとしたらそーなるんだぞ」とちょっと拗ねたように、再び牢に背を向けて座る白嵐に、背を合わせるように少年も牢にもたれかかる。
「あはは・・・僕にそんなことをいうなんて、ほんとにおかしな人だね、キミは」
呆れたようにため息混じりにもらせば
「いーんだよ。俺がやりたくてやってんだから」
ふん、と鼻息荒く返事が戻ってくる。
背中合わせで表情は見えなくても、互いが笑っていることだけは雰囲気で感じ取れて。
空が真っ暗になって、さえずりひとつ聞こえなくなって。
静かな世界に、祭りの歌が響いていたという。
崖の向こうまで響く幼い高音。
たいようおちて あいいろせかい
のこるオレンジ かすかにたより
おうちへかえろ いそいでかえろ
さえずりきえて まっくろせかい
ふわふわぬくい うもうのふとん
もぐってねむろ うたききながら
あのこがないた むらさきのそら
しろいひかりに うたごえふえる
いってらっしゃい あさがはじまる
「・・・それ、子守唄だろ?」
白い翼を羽ばたかせて、少年が一人、牢のそばに降り立った。翼をしまい、歩み寄ってくる。牢の中で歌っていた少年も歌うのを止め、柵のそばまで近寄った。
「ここに来たら、また怒られるんじゃない?白嵐」
「構うもんか。村にいたってつまらないしな」
からかうような語調に、軽い返事。顔を見合わせてくっと笑う。
柵にもたれるように腰掛けたのは白嵐と呼ばれた少年。オレンジ、白、紫、藍色、きれいなグラデーションを描く空を見上げた。くるりと牢の中の少年に顔だけ向けて。
「お前、いつもそればっか歌ってんのな。」
「うん、これしか知らなくて。ははさまが昔歌ってくれたんだ」
問いかけに、苦笑いを添えて返事をする。
「僕もいろんな歌が知りたい。村の皆みたいに、たくさん歌いたい」
でもそれは無理な願いだよね、そう言って肩を落とす。
その様を見てすっくと立ち上がり、大きく息を吸い込んで。
歌えや歌え 今宵は祭り
騒げや騒げ 今宵は宴
翼広げて 扇に変えよ
月夜に響け 我らが歌声
寝てるのも起こしてつれて来い
みなで騒がずなんとする
病気だろうと飛び起きようぞ
一夜限りの大乱響
踊れや踊れ 風舞うほどに
飲めや食えや 動けぬほどに
翼羽ばたき 嵐に変えよ
月夜に響け 我らが歌声
その大きな声に、牢の中の少年は驚いて目を丸くした。
そんな少年の方を向いて、にっと白嵐が笑う。
「歌なら、俺が教えてやるよ」
思ってもいなかった言葉に、一瞬きょとんとした顔をして。ちょっとの間を置いて、真一文字に結ばれた唇が緩やかに弧を描いた。
「ありがと、・・・でも、あんまり上手じゃないね。とってもがらがら声」
「なっ、そんなこというと教えてやんねーぞ!!」
あははは、楽しそうな笑い声が響く。「お前ももうちょっとしたらそーなるんだぞ」とちょっと拗ねたように、再び牢に背を向けて座る白嵐に、背を合わせるように少年も牢にもたれかかる。
「あはは・・・僕にそんなことをいうなんて、ほんとにおかしな人だね、キミは」
呆れたようにため息混じりにもらせば
「いーんだよ。俺がやりたくてやってんだから」
ふん、と鼻息荒く返事が戻ってくる。
背中合わせで表情は見えなくても、互いが笑っていることだけは雰囲気で感じ取れて。
空が真っ暗になって、さえずりひとつ聞こえなくなって。
静かな世界に、祭りの歌が響いていたという。
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