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誰かの声が聞こえるんだ。君の名前を教えて?・・・よく聞こえないな、もっと僕のそばに来ておくれよ。もっと話をしよう。さぁ、おいで。姿を見せて。
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  • 05/16/04:15

04.09.19:47

【記憶のカケラ】氷原に吹く春風

僕の世界は暗い牢の中。
壊れたときにはもう、誰の姿も無かった。

風にまかせ、氷の野を行く
一人でいよう、そう決めて。

吹きすさぶ冷たい風にまかせて旅に出て、
それからであった人たちは、温かくも、冷たくも。
でも、長くいるべきではないと、そう思っていた。

ある人が、ひとつの学園を薦めてくれた。
行くべきかどうか迷ったが、行ってみることにした。

それでも一人でいるべきだと思っていた。
誰かと関わりを持ったとしても、深入りするべきではないと。

それがどうして。
いつしかたどり着いた、春の草原。
いつも僕より一回り小さな青年が隣にいる。

どうして僕は心から笑っているんだろう。
その青年が教えてくれた心の温かさ。平穏。

本当は気を緩めるべきではないのだと誰かの声が聞こえる。
でも僕は、このぬくもりを、心の底から、感じていたい。
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03.07.04:40

まだ見ぬ弟に向けた手紙

『しぎへ

手紙をありがとう。ちゃんと受け取った。
ポケットに入れて出たのだが、いつの間にやら無くしてしまった。せっかくくれたのに、申し訳ない。
君がいつ僕のところへ来て、どうやって手紙を置いていったのか分からないが、
来てくれたのなら一声かけてくれれば良かったのに。少々残念でならないよ。

君には僕に会えない事情があると聞いた。何か抱えることがあるのだろう。
でも僕は君に会ってみたい。君が話せる事からでいい、話を聞く準備もしておく。
だから、いつでもいい。僕に会うことがあれば、遠慮なく話しかけてきてほしい。

P.S.君の名前には覚えがある。君にとっても、何かの鍵になるかもしれない。

鴇』


角の立った、癖のあるが丁寧な字で、真っ白な便箋に書かれた手紙。
どこに置いておけば彼が見てくれるだろうか。まったく検討がつかない。
仕方がない、と彼が手紙を置いていたテーブルへそっと置いて、それがなくなり、返事が帰ってくることを待った。

03.06.13:24

同じ体の兄弟にあてた手紙

『ときにいさんへ

こんにちわ。はじめまして。
・・・はじめましてっていうのもおかしいな。だってずっといっしょにいるんだもん。
ぼくのなまえはわからない。けど、みんなにはしぎってよんでもらってる。

うんとね、いろいろにいさんとおはなししたいんだ。
でもぼくのこえはにいさんにはきこえないから、おてがみにすることにしたの。
でりっくがそうしたらいいっていってたんだ。

ぽるかも、あにーも、がくも、でりっくも、くれーぐも、かしすも、・・・ぶるーはちょっとこわいけど、
みんなとってもいいひとだね。ぼくもしあわせ。ころさなくてもいいから。

はやくにいさんとおはなししてみたいな。たのしみにしてるねっ。

しぎ』


学校でもらうプリントの裏に平仮名ばかりで書かれた手紙。
ところどころ判読の難しい、まるでグーで鉛筆を持って書いたのかといいたくなるような乱雑な字で書かれていた。
テーブルの上にひらりとそれだけ残して、黒い鳥は夜明けと共に眠りにつく。

03.04.03:37

【記憶のカケラ】声が聞こえる。

かあさま、見て。

小さな手が差し出した雪だるま。
魔法で作った小さな雪だるま。
ただ、大好きな母の笑顔が見たくて。

白い鳥に一羽混ざった黒い鳥。

声が聞こえる。
その幼子を見てささやく声。

ただ笑ってほしかった。
すごいねって褒めてほしかった。

幼子を見る母の顔は青ざめていた。

どうして。
なぜ。
ダメだって言ったじゃない。

泣き叫ぶように崩れ落ちる母。
笑顔の代わりに怒声と涙をもらった。

小さな手から雪だるまが滑り落ちた。
床に落ちて、無残にも崩れていった。

悲しみにくれる黒い鳥。

声が聞こえる。
幼子を見て恐怖する声。

かあさま!かあさま!

最後に見た母の顔は無表情だった。
感情を隠そうとしているようにも見えた。

幼子を容赦なく連れて行く大人。
高台にある、真っ白な雪に覆われた岩の牢。

かごに閉じ込められた黒い鳥。

声が聞こえる。
誰にも聞こえない、大きな大きな泣き声。

やがて幼子は泣きつかれた。
外へ出ることを諦めた。

「生まれてこなければ良かったのだ」

そう繰り返される言葉に心を染めていった。